二十一世紀初頭は、不確実な時代である。
前世紀までに築かれてきた、あらゆるモデルが崩れ、作り直されていく。
Internet・AIを前提とした新しいsoftwareの時代、
そしてSNS化していく社会。
Internetは社会の前提となり、SNSは人間関係や情報流通の形を変えた。
そしてAIは労働そのものをも書き換えようとしている。
これまで正しいとされてきた常識や制度、キャリアや産業のモデルは次々と更新されていく。
昨日まで有効だった知識は今日には陳腐化し、正解そのものが流動化している。
私たちはもはや「正解」を探しているのではなく、その時々における「最適解」を求めている。
そんな時代に、人はなぜ星空を見上げたくなるのだろう?
■ 季節の巡る太陽と月の暦、二十四節気、七十二候
人類は長い間、空を見て暮らしてきた。
春分、夏至、秋分、冬至。
太陽の高さや月の満ち欠けは季節の到来を知らせ、農耕の時期を決定した。
二十四節気や七十二候は、その変化をさらに細かく観察し、自然の移ろいを記録したものである。
今日の私たちはスマートフォンで日時を確認する。
太陽や月の運行は今も変わらず続き、季節もまた太陽と地球の関係によって決められている。
SNSのタイムラインは秒単位で更新されるが、
夏至は今年も訪れ、冬至もまたやって来るだろう。
(少なくとも太陽系が燃え尽きない限り)
空を観察することは、より長い時間の流れと自分を接続するための行為なのかもしれない。
■ ホロスコープ、天文学と占星術
古代の人々にとって、星空は単なる自然現象ではなかった。
そこには神々が住み、人間の運命が書き込まれていると考えられていたようだ。
王の即位や戦争の開始、国家の行方までもが星の配置から占星術として読み解かれた。
現代人は占星術を科学とは見なさない。しかし興味深いのは、その正しさではなく、人類が長い間「空に意味を求め続けてきた」という事実である。
人はなぜ空に意味を求めるのだろう?
それは過去と未来、自分がどこから来てどこへ行くのかを知りたいからであり、
それによって今を生きる自分の人生を、より大きな物語の中へ位置づけたいからである。
占星術が星の配置から未来を読み取ろうとしたように、現代は膨大なデータから未来を予測しようとしている。手法は変わったが、人類の欲望そのものはそれほど変わっていないのかもしれない。
■ 星々を結ぶコンステレーションと宇宙のスケール
夜空に描かれた星座は、実際には存在しない。
オリオン座を構成する恒星たちは、それぞれ異なる距離に存在している。
私たちは地球から見た見かけの配置を投影し、線で結び、神話や物語を与えているだけだ。
夜空に広がる無数の星の中からパターンを見出し、意味を発見し、物語を構築する。
私たちはその点に空想上の線を結んで星座を作る。
しかしその線は実際には宇宙に存在していない。
人間が後から与えた線である。
社会制度や経済モデル、あるいは国家や文化もまた同じなのかもしれない。
SNSに流れる膨大な情報も、AIが学習する巨大なデータも、本来は単なる点の集まりである。
そこから関係性を見出し、一つの世界像を作り上げる。
星座とは、ある意味で人類最古の情報可視化技術だったのかもしれない。
そしてその背景には、人類の想像を超える宇宙の広大さが横たわっている。
■ 空間と情報を更新していく宇宙ビジネス
かつて人々は星を見ていた。
しかし現在、人々は宇宙から地球を眺めている。
打ち上げられた人工衛星は地球全体を観測し、気象を予測し、位置情報を提供し、通信ネットワークを支えている。
私たちがスマートフォンで地図を開き、天気を知り、カーナビで目的地まで移動したりできるのも、その背後に宇宙空間を飛び交う無数の人工衛星が存在するからである。
星空は神話の舞台からインフラへと変化した。
夜空を見上げれば、そこには恒星だけでなく、人類が打ち上げた新たな衛星も存在している。
二十一世紀の宇宙は、もはや遠い世界ではない。
それは情報社会そのものの基盤となっている。
■ 天文学への逃避的な態度、または、星空を観察することについて
では、なぜ人は星空を見るのだろう。
AIが知識を書き換え、SNSが意味を書き換え、社会のあらゆるモデルがsoftwareによって再構築されていく時代に。
それは現実逃避なのかもしれないし、あるいはその逆なのかもしれない。
地上の座標系が絶えず更新されるからこそ、人はより長い時間軸と、より大きな空間軸を求める。
太陽は昇り、月は満ち欠けし、地球は公転し続ける。
占星術から人工衛星まで、人類は何千年にもわたって空を観察し続けてきた。
過去と未来の意味を知るために、自分の位置を知るために、また、世界を理解するために。
そして、不確実な時代において、星空を見上げることは、ただ現実から逃避しているということではない。
むしろ、あらゆる正解が失われた世界で、自分の今いる場所を確かめるために、星空を見上げる必要があるのではないだろうか?